福井晴敏 亡国のイージス感想


美しさと醜さ、やさしさと厳しさが表裏一体になって、
時々の風向きで現れ方を変える。それが人であり、
その揺らぎを失ってひとつの観念に縛られた瞬間から、
人は過ちを犯す様になるのだろう。


「月に繭 地には果実」福井晴敏 より

そしてその揺らぎがまた 人を 記号から人へと揺り戻すんでしょうね
それがある限り 世界は 人は大丈夫
亡国のイージス」「月に繭 地には果実」と
福井晴敏作品を立て続けに読んで そんな想いが心にしんと残りました  


いやいや「亡国のイージス」めっちゃめちゃ良かったです!
壬生義士伝」以来のヒットでしょうか
様々な場面でウルウルしてしまいました 手に汗握ってしまいました
読み出したら止まらなくなって夜明かししてしまいました!


叫んだ少年 答えた大人
あの時確かに同じ場所にいて互いに癒されたはずの二人が
相反する集団の中 敵となって対峙してゆく
一人は息子を奪われた怨恨から
一人は両親から受けた傷故の空虚から


愛に見捨てられた空っぽな少年 如月行
感じなければ傷つかない
この台詞が痛くて痛くて悲しくて
私は読んでいて自分が仙石でした
仙石と一緒に 如月行が気になって気になって
行の悲しみに体が反応して
ただただ立ち尽くすだけの仙石の気持ちが痛い程分かって
だから 行が ゆっくりと仙石によってほどけてゆく様が嬉しくて


人から記号に 記号からまた人に
集団はその間を行きつしつつも顔のない巨大な化け物となる
だけれど 主義 大義 正義 己の信じるものに向かって
まっすぐに動いているはずのそれぞれの人々の行動の元が実は
心の傷だったり愛だったり
本当に個人的な 誰の心の中にもあるものだったりする
だからこそ 人は信じあえる 分かりあえる 支えあえる
だからこそ 人は大丈夫
この2作を読んで私は そんな作者の想いに包まれた気がします


そしてこの「亡国のイージス」の次に手にとった
「月に繭 地には果実」
読み終えた私は思わず 虚空に向かって両手を伸ばしていました
そうすれば 今までそこに存在していた
幾多の人々に触れる事が出来る様な気がして


人がしかとそこに生きていた
2作とも そんな物語りでした